海外事業再建と巨額減損の背景
電通グループはいま、海外事業の再建を最優先課題としています。
2025年12月期には、海外M&Aで積み上がったのれん企業買収時の支払額が、取得した資産の公正価値を上回る金額。
詳しくはこちらについて3,960億円の減損を計上し、過去最大の赤字に転落しました。背景には、2013年の英イージス買収以降、規模拡大を急ぐ過程で傘下企業の事業や地域が重複し、グループ内競合まで生じたことがあります。
海外のオーガニック成長率(為替や買収の影響を除く)も、2015年の9.4%から2017年には0.4%まで低下しました。買収によって事業規模は拡大したものの、当初期待した成長を十分に実現できなかったことがうかがえます。
2026年1~6月期は最終損益462億円の黒字となり、巨額減損の反動やコスト削減が利益回復に寄与しました。ただし、これをそのまま本業の収益力回復とみるのは早いでしょう。
2025年度のオーガニック成長率は、日本が6.2%増だったのに対し、米州は3.0%減、APAC(日本を除くアジア太平洋地域)は6.8%減と、海外事業は依然として低迷しています。特にAPACのオペレーティング・マージン(特殊要因を除いた営業利益÷売上総利益)は、2026年1~6月期でマイナス6.5%と厳しい水準にあります。
今後は海外法人を約500社から300社程度まで削減し、従業員も約3,400人削減する計画です。
財務面では、減損や事業売却による「止血」は進みました。ですが、本当に重要なのは資産を軽くした後に、再び利益を生み出せる企業体質へ転換できるかどうかです。AI、データ、電通総研などへの成長投資を通じて、海外事業の売上成長率と利益率を回復できるかが、今後の企業価値を左右します。
企業力総合評価に表れる長期的な変化
企業力総合評価成長に関連のある指標を統合し、企業の成長を表したグラフ。
詳しくはこちらは、117.5ポイント(2016年)→120.0→121.0→83.8→81.9→127.0→121.7→106.8→81.4→75.7(2025年)と推移しています。
2016年の段階ですでに英イージス買収の影響を受けているため、2013年以前はさらに良好だった可能性もあります。それでも、この10年間の企業力総合評価の乱高下は激しいです。
特に2021年以降は4期連続で悪化し、2025年には75.7ポイントまで低下しました。
この推移から感じるのは、業績や財務構造の悪化に対する対応が後手に回りやすいという点です。
加えて、10期すべてでWARNINGが3つ点灯しています。
理由の一つが、売上債権回転期間売上債権÷月商(単位:ヵ月)
詳しくはこちら(黄棒)と仕入債務回転期間仕入債務÷月商(単位:ヵ月)
詳しくはこちら(青棒)の長さです。
売上債権回転期間は2016年の18.3ヵ月から2025年には15.2ヵ月、仕入債務回転期間も17.6ヵ月から13.8ヵ月へと短期化しました。それでも、いずれも1年を超えています。
改善しているから問題がない、とは言い切れない水準です。
2019年までは売上高・総資産・従業員数がそろって増加しています。内部の充実以上に、事業規模の拡大を志向してきたことが読み取れます(3者の増加は以下に掲載するグラフから確認してください)。
営業効率・資本効率と財務安定性
営業効率「儲かるか」を示す統合指標。
詳しくはこちらと資本効率投下資本に対していくら利益が上がったかについての統合指標。
詳しくはこちらは、企業力総合評価と連動するように大きく乱高下しています。
特に2019~2020年、2024~2025年は赤色ゾーンの底値に近く、危機的な状況といえます。
一方、生産効率人の活用度を評価する財務指標の統合指標。
詳しくはこちらは青色ゾーンを推移し、資産効率資産の活用度についての統合指標
詳しくはこちらも底値から改善トレンドにあります。
流動性短期資金繰りについての統合指標
詳しくはこちらは赤青ゼロ判別付近からなかなか離れず、安全性潰れにくさや長期資金繰りについての統合指標。
詳しくはこちらは2025年にゼロ判別に達しました。全指標が一方向に悪化しているわけではありませんが、収益力と財務安定性の双方に課題を抱えていることが分かります。
営業効率から見る利益率低下の構造
営業効率の財務指標数値を詳しく確認してみましょう。
2020年を除けば増収(青棒)トレンドにある一方、売上高総利益率売上総利益÷売上高×100(単位:%)
詳しくはこちら(オレンジ線)は悪化トレンドにあります。9年間で94.12%から83.44%へ、10.68ポイントも低下しました。
毎年の悪化は1ポイント程度に見えても、積み重なれば大きな差になります。
単年度だけを見ていれば「わずかな悪化」で済ませてしまう変化も、長期で確認すれば企業体質の変化として捉えられます。長期分析の重要性が表れている部分です。
販売費および一般管理費比率販売費および一般管理費合計÷売上高×100(単位:%)
詳しくはこちら(黄線)は改善トレンドにあるものの、売上高営業利益率営業利益÷売上高×100(単位:%)
詳しくはこちら(青線)は大きく乱高下しています。
これは電通グループがIFRSを採用しているため、減損損失や構造改革費など、日本基準であれば特別損失企業の経常的な経営活動とは関わりがなく、特別な要因でその期だけに特別に発生した損失のこと。
詳しくはこちらに計上される項目が営業利益の計算に含まれることも影響しています。
実際、売上高営業利益率は2019年、2020年、2024年、2025年にマイナスとなり、営業損失を計上しています。
2013年のM&Aで取得した英イージス(現デンツーインターナショナルに商号変更)の問題が、長期間にわたって尾を引いています。
この構図は、ベアエッセンシャルの買収後、その処理に長い時間を要した資生堂にも似ています。
PL・BSから見る拡大と資産縮小
PLボックスも確認してみましょう。
黄色部分はIFRS特有の勘定科目を集計したもので、左側にある場合は費用、右側にある場合は収益を示しています。この黄色部分の費用が大きく膨らむことで、営業損失(赤)につながっています。
BS推移を見ると、2019年までは総資産が増加し、それに伴って流動資産・固定資産企業が長期に保有する資産の合計額。
詳しくはこちら・流動負債1年以内に返済予定の負債の合計額。
詳しくはこちら・固定負債1年を超えて返済予定の負債の合計額。
詳しくはこちらも増加しました。一方、純資産資産から負債を差し引いたもので、ネット資産金額。
詳しくはこちらにはそれほど大きな変化がみられません。
その後は総資産が減少に転じ、固定資産と純資産も縮小しています。
つまり、2019年頃までは資産を積み上げながら規模を拡大し、その後は膨らんだ資産を縮小する局面に入ったと見ることができます。
生産効率と人員削減後の課題
生産効率財務指標数値も確認してみましょう。
従業員数(青棒)は減少した期もあり、2024~2025年には減少していますが、長期では増加トレンドにあります。
1人当たり売上高売上高÷総従業員数÷1000(単位:千円)
詳しくはこちら(オレンジ棒)、1人当たり売上総利益売上総利益÷総従業員数÷1000(単位:千円)
詳しくはこちら(黄棒)は改善トレンドにある一方、1人当たり経常利益経常利益÷総従業員数÷1000(単位:千円)
詳しくはこちら(緑棒)は悪化トレンドにあります。
売上や粗利益を生み出す効率は改善していても、それが最終的な利益創出力の改善には十分につながっていません。
今後、海外では従業員数を3,400人削減する計画です。しかし、リストラの成果を単なる人件費削減で終わらせてはなりません。業務効率化や生産性向上を伴う改革にできるか、慎重に見ていく必要があります。
2016年を初年度とした初年度比を比較すると、増加の順序は売上高(黄棒)>従業員(緑棒)>総資産(青棒)>経常利益(オレンジ棒)となっています。
売上高の拡大に対して、利益の伸びが最も弱いです。
この順序は、電通グループが長年歩んできた経営の特徴を象徴しているようにも見えます。
企業文化の再建と利益を生み出す組織への転換
電通グループの社長は、営業畑を歩んできた生え抜き人材が担うことが多かったです。育った組織文化は、少なからず経営判断にも投影されます。
営業職が「花形」だったのでしょうか。
多くの会社を分析していると、むしろ特定の「花形」がない会社の方が強いのではないか、と感じることがあります。
「花形」が存在しないという意味ではありません。
すべての従業員を「花形」と考え、それぞれの仕事に敬意を払う文化がある会社です。
人はそれぞれ自分の人生を生きています。自分の仕事に意味を感じ、自らを輝かせることができれば、そこに誇りや幸福を感じることができます。
一部の部門だけが称賛される会社ではなく、従業員一人ひとりが自分の仕事に誇りを持てる会社。
長く企業を分析していると、そのような会社の方が、結果として全体でも優良な会社になることが多いように思います。
電通グループの海外事業再建で問われているのは、単に会社数や従業員数を減らせるかではありません。
拡大を優先してきた経営から、利益を生み出す組織へ。
そして、一部の「花形」に依存する組織から、それぞれの専門性を生かせる組織へ。
財務の再建と組織文化の再建は、実は同じ課題なのかもしれません。
```2021年の資生堂の記事です。
2013年の資生堂の記事です。
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