株価変動と企業力総合評価の改善
キオクシアホールディングスの株価は、上場後、大きく変動しています。しかし、株価の乱高下だけを追っていては、企業の本当の実力を正しく判断することはできません。
では、財務数値から見たキオクシアは、どのような企業なのでしょうか。
本記事では、半導体市況の影響を受けやすい収益構造、設備投資、人材確保、財務体質、キャッシュ・フローなどを財務分析の観点から検証します。市場の期待と財務の実態に、どの程度の差があるのかを読み解いていきます。
企業力総合評価成長に関連のある指標を統合し、企業の成長を表したグラフ。
詳しく見るは、2024年には61ポイントと破綻懸念(60ポイント)ギリギリの水準でした。しかし、2025年には129ポイント、2026年には153ポイントまで改善し、優良企業の水準に入っています。
140ポイント以上170ポイント未満を取っている企業は、企業力Benchmarkerに載る全企業のうち約41%ほどです(170ポイント以上を取っている企業の割合は約13%ほど)。
企業力総合評価の改善に大きな影響を与えたのが、似た形状で推移している営業効率「儲かるか」を示す統合指標。
詳しく見ると資本効率投下資本に対していくら利益が上がったかについての統合指標。
詳しく見るです。さらに、生産効率人の活用度を評価する財務指標の統合指標。
詳しく見る、資産効率資産の活用度についての統合指標
詳しく見る、流動性短期資金繰りについての統合指標
詳しく見る、安全性潰れにくさや長期資金繰りについての統合指標。
詳しく見るも、おおむね同じ方向へ改善しています。
つまり、特定の指標だけが突出して改善したわけではありません。複数の親指標がそろって改善したことが、企業力総合評価を押し上げていることが分かります。
営業効率とキャッシュ創出力の変化
まず、営業効率の財務指標数値を確認してみましょう。
売上高(青棒)は1,282,101百万円(2023年)→1,076,584百万円→1,706,460百万円→2,337,628百万円(2026年)と推移しています。2024年にいったん落ち込んだものの、その後は急回復し、2026年には2023年の約1.8倍の規模まで拡大しました。
上場時から売上高1兆円を超える大型企業でしたが、その歩みは決して順調なものではありません。
2024年には売上総損失129,343百万円を計上しています。2023年、2024年は大幅な赤字でしたが、2025年には営業利益451,748百万円、売上高営業利益率営業利益÷売上高×100(単位:%)
詳しく見る(青折れ線)26.47%となり、一気に高収益企業へ転じました。
さらに2026年には、そこからもう一段の成長を遂げています。
それにしても、2023年、2024年の最終赤字は、それぞれ138,141百万円、243,728百万円と巨額です。
これほど大きな赤字を計上していた企業のキャッシュ・フローは、どうなっていたのでしょうか。
赤字期でも営業キャッシュフローがプラスとなった背景
キャッシュフロー計算書のグラフを見ると、2023~2026年まで営業キャッシュフロー企業の営業活動による現金収支を表す。キギョウエイギョウカツドウゲンキンシュウシアラワ
詳しく見るはいずれもプラスであることが確認できます。
2023~2024年は営業損失だったにもかかわらず、営業キャッシュフローがプラスです。この点を意外に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
その理由は、キャッシュフロー計算書を見ると分かります。画像は2023年(左)2024年(右)の営業キャッシュフロー計算書です。
2023年を見ると、計算のスタートは税引前利益▲186,443百万円ですが、最終的な営業キャッシュフローは339,104百万円となり、キャッシュインになっています。
マイナスからプラスへ転じた大きな要因の一つが、減価償却費資産の取得額を一定の方法によって費用化することで、各期に生じる費用。イッテイホウホウカクキショウヒヨウ
詳しく見る及び償却費418,169百万円の加算です。
減価償却費は、費用として計上されても、その期に同額の現金が流出するわけではありません。そのため、間接法によるキャッシュフロー計算書では加算されます。
ここから読み取れるのは、キオクシアが大きな減価償却負担を伴う設備を抱える、設備集約型の事業構造だということです。減価償却費が大きいことだけをもって設備が過大とは断定できませんが、売上高が伸びれば、既存設備をより効率的に活用できる余地があることは示唆されます。
そして実際に、2025~2026年には大幅な増収が達成されています。
2025年の財務キャッシュフロー企業の財務活動による現金収支を表す。キギョウザイムカツドウゲンキンシュウシアラワ
詳しく見るは322,679百万円の出金となっていますが、これは有利子負債合計短期借入金+1年以内に返済予定の長期借入金+1年以内に償還予定の社債+短期リース債務+その他短期有利子負債+長期借入金+社債+長期リース債務+その他長期有利子負債
詳しく見るのグラフの動きとも整合しています。
2026年の営業キャッシュフローは616,540百万円まで急伸しました。一方で、財務キャッシュフロー▲96,074百万円、投資キャッシュフロー企業の投資活動による現金収支を表す。キギョウトウシカツドウゲンキンシュウシアラワ
詳しく見る▲221,512百万円ですので、単純差額は298,954百万円となります。
このキャッシュ創出が、現金預金の増加につながっています。これは後ほど、流動性の財務数値でも確認できます。
生産効率と既存の人員・設備の活用
次に、生産効率の財務指標数値を確認してみましょう。
興味深いのは、4年間で従業員数がほとんど変わっていないことです。
業績の変動が非常に大きい状況にあったことから、人員を急速に増やすよりも、既存の人員体制を維持しながら事業を運営してきた可能性があります。
一方、2027年以降には更に大きな増収を見込んでいます。今後、その成長に対応するために人員を増やすのか、それとも生産性の向上によって対応するのかは、注目すべきポイントになりそうです。
同じ発想で考えると、増収に対応するための資産が増加しているのかも気になります。
BS推移を見ると、固定資産企業が長期に保有する資産の合計額。キギョウチョウキホユウシサンゴウケイガク
詳しく見る(水色)はほとんど変わっておらず、従業員数と似た動きを示しています。
さらに固定資産の内訳を見ると、有形固定資産建物・機械設備・土地など有形固定資産の合計額。タテモノキカイセツビトチユウケイコテイシサンゴウケイガク
詳しく見るも無形固定資産のれん・ソフトウエアなど形がない資産の合計額。カタチシサンゴウケイガク
詳しく見るも減少トレンドにあります。
つまり、足元の大幅な増収は、人員や固定資産を同じペースで増加させることによって実現したものではないことが分かります。既存の経営資源を活用しながら売上高を伸ばしてきたことが、財務数値にも表れています。
ただし、今後さらに売上高が拡大するのであれば、人員や設備への追加投資が必要になる可能性があります。
資産効率から見る運転資金と在庫の動き
資産効率は、赤色ゾーンの底値近くから浮上していますが、まだ十分な水準とはいえません。
資産効率の財務指標を確認してみましょう。
仕入債務回転期間仕入債務÷月商(単位:ヵ月)
詳しく見る(青折れ線)は4.85ヵ月(2023年)→3.05ヵ月(2026年)と短期化しています。支払いまでの期間が短くなっているため、資金繰りの観点では不利な方向です。
一方、売上債権回転期間売上債権÷月商(単位:ヵ月)
詳しく見る(黄折れ線)は1.03ヵ月(2023年)→3.39ヵ月(2026年)と3倍以上に伸びています。売上代金の回収までに要する期間が長くなったことを意味します。
仕入債務回転期間の短期化と売上債権回転期間の長期化は、いずれも運転資金の負担を重くする方向に働き、資産効率を押し下げる要因になります。
その一方で、棚卸資産回転期間棚卸資産÷月商(単位:ヵ月)
詳しく見る(オレンジ折れ線)は3.41ヵ月(2023年)→2.12ヵ月(2026年)と改善しています。
急激な増収の中でも、売上高に対する棚卸資産の保有期間は短くなっています。強い需要によって在庫の消化が進んだ可能性もありますが、この数値だけで品薄と断定することはできません。少なくとも、棚卸資産の効率という点では改善していることが確認できます。
先ほど示した有形固定資産についても、有形固定資産回転期間有形固定資産合計÷月商(単位:ヵ月)
詳しく見るという指標があります。グラフは示しませんが、これも改善しています。
ここまで見てきた売上高推移、営業キャッシュフロー、有形固定資産の推移から、すでに同じ方向性を感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
それぞれ別の角度から企業を見ている財務指標ですが、複数の指標が同じ結論に向かっています。
つまり、キオクシアは既存の人員や設備を大幅に増やさないまま売上高を急拡大させ、収益性と資産活用効率を改善している局面にあるということです。
流動性から確認する「超伸び盛り」の実態
流動性の財務数値のグラフも見てみましょう。
2026年の現金預金増加(青面)、売上債権合計売上債権(受取手形、電子債権)+売上債権(売掛金)+その他売上債権
詳しく見る・有価証券株式や債券など市場で取引可能な価値ある証券で短期保有のもの。タンキホユウ
詳しく見る・その他当座資産(オレンジ面)の増加は、これまで確認してきたキャッシュフロー計算書や資産効率の動きとも整合しています。
ここまで財務指標を横断して見ると、キオクシアはまさに「超伸び盛り」の企業といえます。
キオクシアは、東芝から半導体事業を切り出して誕生した企業です。ゼロから設備や人材をそろえた企業ではなく、一定規模の人員や生産設備を抱えた状態から事業をスタートしています。
その後、半導体市況の悪化によって巨額赤字を計上しましたが、足元では売上高が急回復し、既存の人員や設備を活用しながら収益性を大きく改善しています。
一方、ここからさらに成長していくためには、新たな設備投資や増員が必要になる可能性があります。追加投資が次の成長を生むのか、それとも固定費や資金負担の増加につながるのか。
今後のキオクシアを見るうえでは、「どこまで成長できるか」だけではなく、「その成長のために、どれだけの追加投資が必要になるか」という視点も重要になるでしょう。
財務分析から見た成長力と市場評価の論点
以上が、財務の視点から見たキオクシアです。
財務数値からは、企業力が大きく改善し、明確な成長局面に入っている姿が見えてきました。
ただし、財務分析から確認できるのは、あくまで現在までの企業力と、その変化です。
株価が織り込んでいる将来への期待まで含めて考えれば、市場評価と財務実態の間には、なお検討すべき余地があります。
少なくとも、時価総額日本一を正当化する根拠までは、今回の財務分析から得られないようです。
■この企業の最新の分析はこちら → (https://bm.sp-21.com/detail/E35948)
※本記事に掲載された図表・グラフはすべて、企業力Benchmarker(株式会社SPLENDID21)による分析結果に基づいて作成されています。
孫社長の活躍でV字回復を果たしたサンリオです。V字回復ぶりがそっくりです。