財務数値の意味
日本会計基準において、「投資その他の資産」は、貸借対照表上の固定資産の一区分であり、企業が長期的な運用を目的として保有する資産が含まれます。
その中に分類される「投資有価証券」は、主に他社の株式や債券などを長期保有目的で取得したものであり、売買目的ではない証券を指します。
具体的には、子会社・関連会社以外の株式で、長期的な資本提携や取引関係の維持・強化を目的として保有されるケースが一般的です。
投資有価証券は、保有目的に応じて「その他有価証券」として分類されることが多く、原則として取得原価と時価のいずれか低い方(低価法)または時価評価に基づいて貸借対照表に計上されます。ただし、時価が著しく下落し、かつその回復が見込めない場合には、減損処理が必要となります。
投資有価証券の保有状況は、企業の資本政策や取引先との関係性、または保有資産の安全性や流動性に影響を与えるため、財務分析上も注目すべき項目のひとつです。
財務指標理解の基礎知識
近年、日本の上場企業は政策保有株式(いわゆる持ち合い株)を減らす傾向にあります。これは、コーポレートガバナンス・コードの強化や資本効率を重視する投資家の声、東証の市場区分見直しなどが背景にあります。持ち合い株は企業価値向上に直接結びつきにくく、ROEなどの指標を悪化させる要因ともされます。これにより、多くの企業が持ち合い株の縮小に踏み切っており、財務諸表上では「投資有価証券」の項目が減少します。また、売却によって生じた損益は損益計算書に「有価証券売却損益」として計上され、純利益に反映されます。
時系列分析と他の指標との関連性
以下は、日本瓦斯の投資有価証券の推移を示したグラフです。持ち合い株式の解消を進めたことにより、投資有価証券の残高は減少傾向にあります。株価の動向を見極めながら段階的に売却を進めたと考えられます。2017年から2022年にかけて、緩やかに減少しています。

以下は、日本瓦斯の有利子負債合計の推移を示したものです。徐々に減少傾向にあります。持ち合い株式を減らし、その売却資金を有利子負債の返済に充てたと考えられます。有利子負債は各期期末時点の残高を示しているため、期末のみの一時的な増減が数値に影響する場合があります。一方で、支払利息は日割りで発生するため、通期を通じた有利子負債残高の水準を反映しているといえます。今後は、支払利息の推移も確認してみましょう。

以下は、日本瓦斯の支払利息の推移を示したものです。支払利息は減少傾向にあり、有利子負債の削減が着実に進められていることがうかがえます。

投資有価証券は受取配当金や売却益などの収益をもたらしますが、資金負担や価格変動リスク管理が必要です。
財務指標利用の注意点
投資有価証券は、企業が純粋に投資目的で保有している株式や債券、それに対して子会社や関連会社への出資は、支配・影響関係を持つ目的と会計基準では明確に区別されますが、企業力Benchmarkerでは、子会社・関連会社を投資有価証券として処理しています。

- 企業の成長が無料で一目でわかる
- 上場企業4000社、非上場企業1000社の最新の分析結果
まとめ
- 1 投資有価証券の主な保有目的は、子会社・関連会社以外との資本提携や取引関係の維持・強化である。
- 2会計処理上の分類と評価は、「その他有価証券」として取得原価または時価評価で計上し、時価が大きく下落した場合は減損処理が必要となる。
- 3 投資有価証券は財務分析上重要であり、資本政策や取引関係、資産の安全性・流動性に影響を与える要素である。
- 4 政策保有株式(持ち合い株)解消の動きは、ガバナンス強化や資本効率向上の流れを受けて進行中で、売却により「投資有価証券」が減少し、売却損益は損益計算書に反映される。
- 5 日本瓦斯の投資有価証券と有利子負債は減少傾向にあり、持ち合い株の売却資金を負債返済に充てたと考えられる。
- 6 支払利息の減少も確認されており、 有利子負債の着実な削減と財務改善の進展が読み取れる。
有価証券について説明しております。