可愛いキティちゃんも50才。タレントに給料を払う必要もなく不祥事も起こさず、年も取らず死にません。他社からロイヤリティをもらえるどう考えても高利益率であろう株式会社サンリオ。企業力Benchmarkerでサンリオの分析を見るとまさかのV字回復でした。
企業名 | 株式会社サンリオ | ||
証券コード | 8136 | 所在地 | 東京都 |
上場/非上場 | 上場 | 業種 | その他の卸売業 |
連結/個別 | 連結 | 売上高 | 99,981百万円 |
会計基準 | 日本基準 | 総従業員数 | 3,472人 |
分析対象の期 | 2015年03月~2024年03月 |
株式会社サンリオの概要
サンリオは、キャラクター商品の企画・製造・販売を主な事業としています。特に「ハローキティ」などのキャラクターで世界的に有名です。サンリオの事業は、キャラクターマーチャンダイジング(グッズ販売)、ライセンス事業、テーマパーク運営(サンリオピューロランド、ハーモニーランド)などに分かれています。また、映画・アニメの制作や出版物の販売も手がけています。サンリオは「小さな贈り物が友情を生む」という理念のもと、可愛らしいキャラクターを通じてグローバルに展開しています。
全体的な傾向を把握
企業力総合評価とは
”右肩上がり=企業成長”
と定義づけた当社独自の統合指標。0~200ポイントで評価。
ポイント数は、倒産から遠ざかることを成長と定義した統計処理により算出される。
親指標への深掘り
統合指標には、企業力総合評価と親指標(営業効率~安全性)があります。企業力総合評価を確認できたら、次は各親指標を見ていきましょう。親指標は、ゾーニングにより、会計の知識がなくても経営が良い状況かどうかパッとわかります。
緑色ゾーンであれば正常、赤色ゾーンは悪い状態です。
営業効率とは
「儲かるか」を示す統合指標
緑色ゾーンであれば良、赤色ゾーンであれば否、天井値であれば最高水準、底値であれば、悪すぎることを示します。
資本効率とは
投下資本に対していくら利益が上がったかについての統合指標
緑色ゾーンであれば良、赤色ゾーンであれば否、天井値であれば最高水準、底値であれば、悪すぎることを示します。
生産効率とは
”人の活用度を評価する財務指標の統合指標
緑色ゾーンであれば良、赤色ゾーンであれば否、天井値であれば最高水準、底値であれば悪すぎることを示します。
資産効率とは
緑色ゾーンであれば良、赤色ゾーンであれば否。天井値はなく、底値以下は悪すぎることを示します。
流動性とは
緑色ゾーンであれば良、赤色ゾーンであれば否、天井値以上であれば満足水準、底値以下であれば悪すぎることを示します。
安全性とは
緑色ゾーンであれば良、赤色ゾーンであれば否、天井値以上であれば満足水準、底値以下であれば悪すぎることを示します。
サンリオの経営状況を俯瞰してみる
2021年を境に企業力総合評価は悪化トレンドから改善トレンドと大転換しています。
営業効率の連続悪化で2021年には赤色ゾーンに落ち込み、生産効率が連続悪化していました。大きな減収が続き従業員を減らす以外に手を見つけられなかったのかもしれません。
新社長の手腕・組織風土改革の内容とは
2020年7月に92歳の前社長から31歳の新社長・辻朋邦氏に交代しました。
2021年3月期は25年ぶりに営業赤字を出してしまった同社は、それまでも長らく収益性の低下に苦しんでいました。手を尽くすも業績が下がり続けた2021年3月までに対し、2022年3月以降は急激なV字回復を見せています。
新社長の改革内容を先に確認してから、あとで各カテゴリ別に社長交代前後の変遷を確認していくこととしましょう。
組織風土改革
2021年3月期の有価証券報告書で、組織風土改革を掲げています。
自社を「頑張っても報われない」組織風土と反省し、経営陣の若返り・人的リソースの再配分・マネジメントサイクルの徹底・人事評価制度(給与体体系を含む)の見直し・全社員と社長の直接対話の場の設置などを掲げ、2022年3月期には多くの項目を実施済としました。以下は2022年3月期報告の、改革の進捗です。
多岐にわたる構造改革
聖域化していた国内の物販事業を見直しました。具体的には、22年9月から店舗在庫管理と自動発注ができる新システムの導入、およびSKU(取扱商品数)の総数削減の着手があげられます。
加えて、新しい柱としたい海外むけSKUは強化し、EC売上に注力。
赤字店の撤退やアウトレット強化、従業員数の削減など決めました。
以下は2022年3月報告の構造改革の進捗です。
本気で改革に着手した社長 スピード感からわかる危機意識
2020年7月の社長就任から2022年3月期までの1年8カ月で様々な改革を実施してきたことがわかります。危機意識がスピード感ある改革につながっています。
では、どのような成果が得られたでしょうか。
数字を確認していきましょう。
3重苦のち3重幸 極端な動きの営業効率
2021年までは減収・売上高総利益率の悪化・売上高販売費及び一般管理費比率の悪化で3重苦でしたが、2022年以降増収・売上高総利益率改善・売上高販売費及び一般管理費比率改善と3重の改善です。
新社長の行ったSKU削減や不採算店舗の見直し、強化したチャネルの売上の伸びが寄与しています。
ポイントは販売費の掛け方
売上高総利益率・売上高販売費及び一般管理費比率散布図(2021年まで)
売上高総利益率・販売費および一般管理費比率の散布図は、利益獲得と営業活動への再投入のバランスを表します。売上高総利益率は商品・製品・サービスがどれくらい稼ぐかを示す財務指標で、利益志向を示します。売上高販売費及び一般管理費比率は売上高のうちどれだけ営業活動に再投入したかを示す財務指標で攻め強さを示します。
右上象限:稼ぎを攻めに使う
右下象限:稼ぎを利益に残す
左上象限:稼ぎが減っても攻めに使う
左下象限:稼ぎが減り攻めが縮小
4象限分割の軸は率ですから、金額ではなく率です。
斜めに引いた線はx=yですので左上は売上高営業利益率悪化、右下は売上高営業利益率改善を示します。
ⅹ軸:売上高総利益率 y軸:売上高販売費及び一般管理費比率 ×:初年度 ◆:最終年度
初年度から7年目の2021年まで左上の稼ぎが減っても攻めに使う象限にあって売上高営業利益率を減少させています。
よほどの増収が見込めない限りとるべきではないし、サンリオのようにもともと売上高総利益率が高い会社でないと実施できないといえます。
売上高総利益率が悪化する中、売上高販管費比率を上げています。
販管費は販売費と一般管理費に分かれ、販売費は増収を一般管理費は効率化の指標ですから販売費・一般管理費をかけてもどちらも達成できないことを意味します。
左上象限はかなりリスキーな判断です。
売上高総利益率・売上高販売費及び一般管理費比率散布図(2021年以降)
2022年から、右下象限で売上高営業利益率増加に転じました。右下象限へ行く場合、売上高販売費及び一般管理費比率の改善・売上高総利益率の改善を意味します。
売上高総利益率が改善する中、売上高販管費比率を下げています。
販管費は販売費と一般管理費に分かれ、販売費は増収を一般管理費は効率化の指標ですから販売費・一般管理費をかけてどちらも達成しているといえます。
サンリオは売上高総利益率が高く悪化しても60%以上です。このような高利益率の会社は販売費及び一般管理費に使えるお金は沢山あり、潤沢にかけることができるにもかかわらず、減収でした。また、売上高総利益率減少という管理不足を予想されるような数字の動きがあります。販売費も一般管理費も上手く使えなかったといえます。
しかし、2022年以降はその問題は無くなりました。
経営は資源配分です。何にお金を投じるかを変えることでピボットターン(180度ターン)の営業効率を実現しました。
セグメント別売上高・売上高営業利益率
2021年までは、売上高の多い日本の売上高営業利益率が低く2021年赤字転落しています。売上規模は小さいですが10期中欧州7期・北米6期赤字が放置されています。売上高営業利益率の高いアジアも2021年まで減収に甘んじています。
2022年からのV字回復は売上規模が大きく赤字に転落した日本のテコ入れに成功しました。
人の問題は解決したか 生産効率
生産効率 財務指標・数値を確認する
2022年まで従業員数は減少トレンドで、1人当たり売上高は同年に反転しました。
1人当たり売上高減少が2016年~2021年と6年続いており放置が長すぎます。1人当たり売上総利益・1人当たり経常利益が改善しているならまだしも放置し続けた理由はわかりません。
正社員比率改善の効果
従業員構成比グラフを見ると正社員比率が通期増加トレンドになっています。従業員数推移グラフでは2022年までは従業員減少トレンドでその後増加に転じました。
上記生産効率財務指標・数値グラフと合わせみると2021年までは、正社員化しただけでは士気は上がらなかったようですが、その後よくなったと思われます。2023年の正社員比率急増は、仕事ができる臨時雇用社員を正社員化しのかもしれません。
正社員化をすれば士気向上するというものではなさそうです。士気の向上は新社長の取り組みによるところが大きいといえます。
有形固定資産が減っている
下図はサンリオの有形固定資産の推移です。有形固定資産は減少トレンドです。その中でも建物がジワジワと減少しています。自前店舗を減らしていることを示しています。店舗が減れば減収になり、従業員数も減り、在庫も減ります。
2022年以降の善循環(後半)
2022年以降、増収する販売費支出・利益の出る一般管理費の支出で業績V字回復し始めました。これは新社長の手腕によるものです。従業員に勝てる土俵を用意したということではないでしょうか。その結果、士気向上・従業員数増加に転じ、それにより売上アップ・管理徹底で増収増益、財務体質改善に繋がりました。
有形固定資産減少は安全性改善に寄与しています。キャラクター事業は、有形固定資産・在庫を抱えるリスクより、ライセンス貸与や企画立案での収益の方が安全性が高くなり高収益化します。合理的な選択といえます。
下図は2022年以降の財務分析指標から読んだ善循環を表示しています。
まとめ
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【前半】
不合理な販管費支出で減収減益になり士気が下がった。
従業員数を減らして対応していたが生産効率は下がった。
【後半】
新社長の改革断行。
合理性のある販管費支出で増収増益・士気向上。
正社員比率増加が業績改善につながってきた。
【通期】
有形固定資産を減らしている。キャラクター商材のメリットを享受している。
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