棚卸資産合計とは
棚卸資産とは、企業が販売目的で一時的に保有する商品、製品、原材料、仕掛品(しかかりひん)等の総称のことです。
なお、建設業のみで使われる「未成工事支出金」も棚卸資産の性格を持っています。
各項目を具体的に
原材料、仕掛品、商品・製品のすべてが出てくる製造業を例とします。
たとえばパンメーカーの場合、以下のようなイメージです。
製造業で自社で製造したものは製品、小売業など仕入れてきたものを商品と言います。自社が作ったか否かで表現が変わります。ここでは「製品・商品」としています。
棚卸資産の各項目は、BSの「資産の部 流動資産」の欄に記載されています。
企業力Benchmarkerでの扱い
当社のシステム(企業力Benchmarker)では、棚卸資産の各項目は5種類の勘定科目に区分しています。
・商品
・製品
・仕掛品
・その他棚卸資産
・未成工事支出金
原材料は「その他棚卸資産」に含まれます。
また、これらの合計値を「棚卸資産合計」として財務情報一覧表に記載しています。
棚卸資産合計=商品+製品+仕掛品+その他棚卸資産+未成工事支出金
財務分析をするうえでまず抑えたいのは棚卸資産合計
まずは棚卸資産の合計額を計算しましょう。
棚卸資産合計がわかれば、棚卸資産回転期間など財務指標が計算できます。
棚卸資産回転期間=棚卸資産合計÷月商(単位:ヵ月)
※月商=売上高÷12
棚卸資産回転期間に問題があると判断したときは商品・仕掛品などの内訳項目を精査していくといいでしょう。
表記や棚卸資産の中身は業種により多様
次は、企業の有価証券報告書でどのように記載されているか確認しましょう。
一番よく見かける書き方 製造業や小売業等
製造業の場合、以下のような並びがメジャーです。
小売業の場合は「商品及び製品」のみのこともありますが、大手になるほど以下のような表記も見かけます。子会社で製造業をやっていて、親会社のスーパーがそれを販売していたりするからですね。
ヤマハ発動機の棚卸資産合計は、363,066+115,653+130,776=609,495(百万円)です。
以下は企業力Benchmarkerの「棚卸資産合計」です。一致していますね。
建設業の棚卸資産
建設業を営むイチケン株式会社の場合、商品に当たるものとして「販売用不動産」、仕掛品にあたるものとして「仕掛販売用不動産」、また、未成工事支出金も計上しています。
右側の表は企業力BenchmarkerのBSです。一般的な勘定科目名なのでわかりやすいですね。
なお、棚卸資産合計は5,421+2,130+1,644=9,195(百万円)となります。
棚卸資産について気をつけたいこと
当座資産には含まれない
棚卸資産は当座資産には含まれません。当座資産はとくに換金が容易な流動資産です。
当座資産にあたる現金預金、売上債権、一時所有目的の有価証券にくらべると、棚卸資産は「売れない限り現金化できない」ため換金性は低いですね。
少ないほどよいが少なすぎるのもリスク
棚卸資産が少ないということは在庫として眠っている資産が少ないということなので、効率がいいといえます。しかし、薄い在庫で回していると突発的な需要に対応できず機会損失・欠品による信用失墜のリスクとなります。
また、パンのようにすぐに消費期限が来てしまう商品は、滞留在庫が増えるとすぐに期限切れを起こし、廃棄となってしまう可能性があります。
使用期限のない商品も、売れずに長期間在庫のままでいると販売価格が下がってしまう陳腐化のリスクを抱えています。
棚卸資産を多めに持つ業種も増えている
コロナ禍の中国経済封鎖や、戦争による原料・部品の調達困難等のリスクを踏まえ、原材料等を多めに持ちたがる企業が近年は増えています。
製造に必要な部品・材料の種類が多岐にわたる商材(精密機械、家電、車等)ほどサプライチェーンの分断による生産停止のリスクを抱えています。消費期限のない商材であれば原材料を多く確保しておいて、生産を安定させたいという事情が背景にあります。
その結果、棚卸資産回転期間が長期化する業種もあります。
棚卸資産の正常性を把握するなら
棚卸資産の量が適切かを把握するなら棚卸資産回転期間を計算したうえで
①自社の実績(経年変化、機会損失、欠品、廃棄損、陳腐化損)・商材の性質の検討
②競合他社比較
といった方法が有効です。
棚卸資産を月商で割った指標です。資産の効率を測る指標の一つです。