財務分析をしていて、本業以外で利益を獲得する企業に興味を持ったことはありませんか。この記事では、「財務体質の良い会社は運用資産・人にゆとりがあるため本業以外でも儲かる手段を持っているのではないか」という仮定に基づき、散布図を使って解説します。
散布図について
「純資産比率」をx軸、「売上高経常利益率−売上高営業利益率」をy軸とする散布図(直線)を作成します。
「純資産比率」は財務体質の良さを、「売上高経常利益率−売上高営業利益率」は貸借対照表に稼がせる力を表します。
y軸の指標は目新しいかと思いますので、まずはそれを説明します。
「売上高経常利益率-売上高営業利益率」とは
売上高経常利益率と売上高営業利益率の各計算式は以下のとおりです。
売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100
売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100
「売上高経常利益率−売上高営業利益率」は、以下のような式で表すことが可能です。
(経常利益−営業利益)÷売上高×100
つまり、営業利益と経常利益の間に挟まっている収益と費用のネット額を、売上高で割っていることとなります。
「売上高経常利益率-売上高営業利益率」を「貸借対照表に稼がせる指標」呼ぶ理由
赤線を引いた受取利息・受取配当金・持分法による投資利益は、同社のもっている金融資産から生じます。金融資産は、預金や株式・債権等で、貸借対照表の資産の部に「有価証券」「投資有価証券」「出資金」等として計上されています。
また、支払利息は借入金から生じます。借入金は貸借対照表に負債として計上されます。負債は利益が出ると返済され減っていきます。
利益が出る→金融資産が増える→受取利息・受取配当金・持分法投資利益が増える→営業外収益が増える
という流れと
利益が出る→負債が減る→支払利息が減る→営業外費用が減る
が起きます。
ですから、営業利益より経常利益が多い会社は貸借対照表に稼がせていると言えます。
「売上高経常利益率-売上高営業利益率」の数値が高いほど貸借対照表が稼いでいるといえるのです。
貸借対照表に稼がせるなんて、まるでほったらかしで儲かっているように感じるかもしれませんが、どの株式を買うかなど人が努力しています。
金額ではなく%にすることで比較分析が可能
「経常利益額-営業利益額」でもよいのではと思われるでしょうか。1社の時系列分析ではそれでも問題ありませんが、複数社の比較分析をする場合規模が違うので比較できなくなります。そこで率で評価することにしています。
「純資産比率」「売上高経常利益率-売上高営業利益率」の散布図の読み方
やっと散布図にたどり着きました。
x軸:純資産比率 y軸 売上高経常利益率-売上高営業利益率 ×:初年度
「売上高経常利益率-売上高営業利益率」は財務純益比率と読み替えることにします。
この散布図では、初年度のみをプロットしています。
財務体質とBSが稼ぐ利益のバランスを表し、上記の4象限に分割されます。
注意点として、初年度(×マーク)が基準となってその後の期の「改善・悪化」が評価されるため初年度が異常値の場合は基準の期を変更する必要があります。
3社の企業事例で3社で具体的に説明します。
(※左下象限への移動している適切なサンプルを見つけることはできませんでした)
企業事例 3象限の考察
大和工業株式会社は、鉄鋼業を中心とした事業を展開している企業です。主に以下の事業を行っています。
- 鉄鋼事業: 建設用鋼材や特殊鋼の製造・販売を行っており、特に電気炉を使った鋼材の生産が強みです。
- 鉄鋼関連事業: 鉄鋼製品の加工や販売の他、リサイクル事業や環境保全に関わる事業も手がけています。
大和工業の散布図
大和工業の散布図を下記に示します。純資産比率が初年度86.55%と高くその時点で財務純益比率が8.40%ですので、その時点から財務体質の良さを生かしてBSに稼がせることに成功しています。驚くべきことに最終年度は純資産比率91.16%、財務純益率(経常利益率−営業利益率)は50.10%となりました。
×:初年度 ◆:最終年度
大和工業 PL
大和工業のPLは下記に再掲します。財務純益比率の急伸は関連会社が利益を上げた結果、持分法投資利益が多額になったことです。
よく利益剰余金ばかりため込み純資産比率は高いけど、資金を投資に回していないという意見を聞きます。
投資というと工場や機械等現業を拡大させるためにお金を使うイメージが強いかもしれませんが、大和工業のように、有価証券投資をして稼ぐ会社もあります。
現業がこれ以上増収できる余地がない、儲からない状態で闇雲に現業の投資をするより、株式投資をして優良企業を見つけ、関連会社化・子会社化の道を辿ることもできます。このやり方は財務数字によって企業を見極める力がつくのでM&Aが流行っている今日は良い方法ではないでしょうか。
それにしても見事な会社です。
大和ハウス工業株式会社は、建設業界の大手企業で、幅広い事業を展開しています。主な事業内容は以下の通りです。
- 住宅事業: 戸建て住宅、マンション、賃貸住宅の企画・設計・建築・販売。
- 商業施設事業: ショッピングモールや物流施設の開発・建設。
- オフィス・産業施設事業: 企業向けのオフィスビルや工場の建設・運営。
- 環境・エネルギー事業: 再生可能エネルギーや環境保全に関連する事業。
- 海外事業: 国際的な不動産開発や住宅事業を展開。
大和ハウス工業 散布図
大和ハウス工業の散布図を下記に示します。大和ハウス工業は2・7年目以外がコツコツと純資産比率を改善しています。基本的に財務体質の改善を目指している会社なのでしょう。しかし財務純益率はマイナスになってしまいました。BSに稼がせるのではなく、人が稼ぐ企業を目指しているのでしょう。悪いことではありません。本業に一所懸命といえるのではないでしょうか。
x軸:純資産比率 y軸 財務純益比率 ×:初年度 ◆:最終年度
大和ハウス工業は人が稼ぐ企業であるとすれば、人が稼ぐことに達者な企業である可能性が高くなります。
生産効率を見てみましょう。予想通りですね。
更に生産効率の財務指標・数値を確認してみましょう。従業員数の増え方は緩やかになってきていますが、1人当たり売上高は2021年を除き改善トレンドで、2022年以降急伸しています。徹底的に人を成長させ本業を磨く意思を感じます。このような会社に財務純益比率のマイナスの話をしても仕方ないでしょう。
大和重工株式会社は、主に鋳造製品の製造を手掛ける上場企業です。具体的な事業内容は以下の通りです。
- 鋳造事業: 産業機械や建設機械向けの鋳造製品を製造しています。特に鉄鋼を中心とした鋳物の製造に強みがあります。
- 精密加工事業: 鋳造品の高精度な機械加工を行い、完成品として提供しています。
- その他事業: 一部では産業機械や設備の設計・製造も行っており、多様な分野に対応しています。
色々想像が膨らみますが一番わかり易い営業効率の財務指標・数値を見てみましょう。
大和重工業 散布図
大和重工業の2019年12月期を初年度とした散布図を下記に示します。このグラフの動きを見てどんな印象でしょうか。純資産比率が低下しているのは赤字が原因か、総資産の急増などどのような要因があったのか。財務純益比率が上がるのはどのようなオペレーションをしたのだろうか。実際どのような営業外収益の増加または費用の減少が起こったのだろうか。
営業効率財務指標・数値のグラフを確認すると、10期中営業損失8回・経常損失3回・当期純損失3回で本業が全く奮いません。売上高経常利益率(緑線)は売上高営業利益率(青線)の遥か上を推移しています。
損益計算書の営業外収益・費用の勘定科目を確認してみましょう。受取配当金・受取地代家賃が大きいですね。売上高自体は2020~2021年は減収ですので、営業外収益が増えたというより、分母の売上高の影響で左上象限に走ったのでしょう。
それにしても財務純益をとれるようにしておくことは業績悪化時の緩衝材になることがよくわかります。
まとめ
- 1 純資産比率が改善し財務体質が良くなる過程で、財務純益比率を上げようとする会社と現業で勝負しようとする会社がある。
- 2 前者は大和工業株式会社で後者は大和ハウス工業がある。
- 3 どちらが優れているということではなく、経営者が判断すること。
- 4 純資産比率が悪化し財務純益率が改善するケースは大和重工業がある。赤字で純資産比率が悪化する中、減収で財務純益比率が改善したのであって何かオペレーションがあったわけではない。
- 5 今回適切なサンプルがなく解説できなかった象限(純資産比率悪化・財務純益比率悪化)については、業績悪化があるとすれば「赤字→金融資産売却→受取配当金減少」の可能性が高いのではないかと推測できる。
- 6 財務体質改善時の分析がより明確に企業の状況を表す。
純資産比率の基本から、時系列分析、他の指標との関連性を説明しています。