給与とは
従業員に対して労働の対価として支払われる金銭やその他の経済的な利益を指します。企業の費用として販売費および一般管理費の内訳科目です。基本給・各種手当等が含まれます。
給与 分析事例
ナカバヤシ
役員報酬は増えるが給与は増えない
下記グラフはナカバヤシの役員報酬・給与の初年度比(2015年初年度)です。「役員報酬とは」で述べたように、ナカバヤシは業績が悪くなっています。初年度比を見ると給与はあまり上がりませんが、役員報酬は上がります。
役員は経営責任を負っているので、業績が悪くなれば役員報酬を下げるべきですが、実際には役員報酬を上げ、従業員の給与を抑えています。
役員は経営責任を負っているので、業績が悪くなれば役員報酬を下げるべきですが、実際には役員報酬を上げ、従業員の給与を抑えています。
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給与総額より従業員数の方が多くなる 1人当たり給与減少
下記グラフはナカバヤシの給与・従業員数の初年度比(2015年初年度)です。グラフから従業員数増加の方が給与総額増加を上回っていることがわかります。素直に考えれば、モチベーションは下がります。
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大和ハウス工業
役員報酬より給与が増える
下記グラフは大和ハウス工業の役員報酬・給与の初年度比(2015年初年度)です。「役員報酬とは」で述べたように、大和ハウス工業は業績が良く絶好調です。初年度比を見ると役員報酬はあまり上がりませんが、給与は着実に上がります。
役員は経営責任を果たし、業績は良くなっているのに、頑張ってくれた従業員の待遇を先に改善しています。
この分析は1人当たり役員報酬・給与ではありませんが、何にお金をかけたかがわかります。
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給与総額・従業員数が同等増加したが、ここ3年従業員数は足踏みで給与総額が増加 1人当たり給与増加
下記グラフは大和ハウス工業の給与・従業員数の初年度比(2015年初年度)です。2021年までは同じ調子で増加していましたが、それ以降は従業員数より給与の方が多くなり始めました。明確な転換点(2021年)が見えます。
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下記グラフは大和ハウス工業の生産効率財務指標・数値です。上記初年度比の転換点である2021年と、生産効率財務指標・数値の転換点は一致します。したがって、1人当たり給与平均が上がっても、1人当たり売上高もかなり上がっており、営業効率には影響がないでしょう。
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給与の金額だけを見ていても、分析はうまくいきません。関連する指標・数値で時系列分析を行うと、有益な知見が得られます。
給与の値はどこに載っているのか
販管費の内訳項目は表示場所が複雑
いざ、「給与について自分で分析しよう!」と思ったときに気を付ける必要があるのが、開示の有無です。
前提として、給与は「販売費および一般管理費」の1項目です。
このような販管費の内訳項目は、開示の有無や開示場所が複雑ですので、解説していきたいと思います。
分析する企業によっては、そもそも非開示で分析できない場合もありますので注意が必要です。
給与がPL本表に載っているケース
非上場企業の一般的な決算書では、給与は基本的に独立して記載されています。
有価証券報告書を提出する企業(上場企業等)では、給与をPL本表で開示しているのは約20%(約1020社・2024年)です。残りの約80%の企業では、PL本表には記載されていません。そのような企業であっても、給与が販売費及び一般管理費合計の概ね10%以上の場合などは、注記としてPL本表の数ページ後に開示されています。
なお、企業力Benchmarkerでは、PL本表で開示されている給与の値は取得していますが、注記のみで開示されている場合には値を取得していません。
以降の章では、有価証券報告書を提出する企業について会計基準ごとに解説します。
日本基準を採用する企業の場合
給与をPL本表で開示する約1020社は、会計基準として「日本基準」を採用しています。ドメスティック産業を主軸とする企業などは、ステークホルダーにも馴染みの深い日本基準で財務諸表を開示することが多いです。
ただ、日本基準を採用しているものの、給与を含む販管費内訳項目をPL本表で開示していない企業もたくさんあります。その場合は注記を確認しましょう。
大和ハウス工業は給与を「従業員給料手当」という勘定科目でPL本表に掲記しています。
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米国会計基準を採用する企業の場合
次に、米国会計基準を採用する企業についてです。前述のとおり、日本基準採用の企業でしかPL本表に給与の開示はありません。
米国会計基準では「販売費及び一般管理費」の値のみが本表に載っています。給与の開示の有無については、各注記を確認していく必要があります。
なお、別の論点となりますが、米国会計基準では販管費及び一般管理費の額とは区別して、研究開発費が独立掲記される場合も多いです。
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IFRSを採用する企業の場合
次に会計基準でIFRSを採用する企業についてです。IFRS(国際会計基準)は、グローバル展開する企業が採用する傾向にあります。世界的に認知されている会計基準ですので、海外投資家や海外の企業をステークホルダーに持つ場合は、IFRSを採用するメリットがあります。
IFRSを採用する企業はおおむね以下のような表記になり、連結PL本表には給与は表記されていません。注記を確認しに行く必要があります。
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まとめ
- 1給与と役員報酬の初年度比で経営者の姿勢が読める。
- 2 給与と従業員数の初年度で賃上げの動向が読める。
- 3給与の金額を見ていても分析はうまくいきません。関連する指標・数値で時系列分析するとナレッジが得られます。
- 4 日本基準は(連結)損益計算書上給与が表記される場合もあるが、米国会計基準・IFRSでは表記されない。
- 5 給与は「給与」以外の勘定科目で開示されることもある。
役員報酬と業績の関係を分析・考察しています。