財務数値の意味
のれん(営業権)とは、M&A(企業の合併・買収)において、取得企業が被取得企業を時価純資産よりも高い金額で買収した際、その超過支払額を会計上で認識する無形固定資産です。これは、被取得企業のブランド力、顧客基盤、従業員の技術力、将来の収益力など、個別には識別できない経済的価値をまとめたものであり、帳簿上は「のれん」として資産計上されます。
財務指標理解の基礎知識
被取得企業の純資産(資産-負債)の時価が100億円であるにもかかわらず、買収価格が150億円であれば、差額の50億円が個別に識別できない経済価値であれば「のれん」となります。
会計基準によって、のれんの会計処理は異なります。
日本基準では、のれんは20年以内の合理的な期間で償却されます。また、価値の著しい低下が認められた場合には減損処理が必要です。
一方、IFRS(国際会計基準)や米国基準(US GAAP)では、償却は行わず、代わりに毎期減損テストを実施することが求められます。このため、のれんが長期間にわたり貸借対照表上に残る傾向があります。
時系列分析と他の指標・数値との関連性
下記は、アンジェスの総資産に占めるのれんの比率(総資産のれん比率)を示したグラフです。同社は、日本の上場企業の中でも、最ものれん比率が高い企業の一つです。これは、2020年12月に新規ゲノム編集技術を保有する EmendoBio Inc. を子会社化した際に計上されたものであり、のれんは日本基準に基づき10年間で償却される予定です。

下記は、アンジェスの営業効率に関する財務指標の数値です。同社自身も売上高がほとんど計上されておらず、2020年に買収した EmendoBio Inc. についても、売上高は確認されていません。その一方で、両社ともに販売費及び一般管理費(販管費)の計上が続いており、事業活動に伴う費用負担のみが増加している状況が見受けられます。

下記は、アンジェスの販売費及び一般管理費(販管費)の内訳です。同社は売上高が年間で1億円にも満たない状況である一方、役員報酬が約2億円、地代家賃も約1億9,000万円と、固定的な販管費が大きな比重を占めています。売上規模と費用構造との間に著しい乖離が見られ、経営の効率性や費用対効果の観点から慎重に評価すべき状況であるといえます。

財務指標利用の注意点
のれんは、企業の将来の利益を期待して行われた投資の一部として重要ですが、実際の収益力が期待を下回る場合には減損損失が発生し、損益計算書に大きな影響を与えるリスクもあります。そのため、のれんの金額や増減の背景を読み解くことは、財務分析において非常に重要な視点の一つです。
総資産のれん比率について説明しています。

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