減価償却費とは
減価償却費とは、企業が所有する固定資産(例えば建物、機械、設備、車両など)の購入費用を、使用可能な期間(耐用年数)にわたって分割して計上する費用のことです。これは、固定資産が時間の経過や使用によって価値を失っていくことを反映した会計処理です。
財務諸表分析手法 減価償却費
減価償却費と修繕費のトレードオフ
設備や資産は、経年劣化に伴い修繕費が増加する傾向がありますが、こまめに修繕を行うことで、大規模な修繕費を回避できる場合もあります。
また、新規購入を行えば修繕費は低減しますが、その分減価償却費が増加します。 このように、修繕費と減価償却費はトレードオフの関係にあります。
減価償却費の減少と修繕費の増加 リゾートトラスト
リゾートトラストでは、2021年以降、修繕費が増加し、減価償却費が減少しています。
このことから、設備投資の減少に伴い、設備の老朽化が進み、修繕費の負担が増加している状況が推察されます。
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減損損失が多いと減価償却費が減る
償却資産(有形・無形固定資産)の取得原価(購入に要した金額)は、減価償却費として計上されるか、減損損失として処理され、費用または損失となります。
また、減損損失として計上される金額が多い場合、その分減価償却費は減少します。 しかし、減価償却費が減少したからといって、必ずしもコストダウンできているとは限りません。
減損損失が多く減価償却費が少ない フジオフードグループ本社
下記は、フジオフードグループ本社の連結損益計算書における特別損失の項目です。同社は、多額の減損損失を計上しています。
減損損失として計上された金額の分だけ、減価償却費として計上される金額は減少します。
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下のグラフは、フジオフードグループ本社の連結損益計算書における減価償却費(販売費及び一般管理費)の推移を示した10年分のグラフです。
一見すると、減価償却費が低減しているため、良い傾向に見えるかもしれません。
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下のグラフは、フジオフードグループ本社の連結損益計算書における売上高減価償却費比率(減価償却費 ÷ 売上高)の10年推移を示しています。
比率が低下しているため、一見すると良い傾向に見えます。また、その影響で売上高営業利益率が改善しているように見えます。
しかし、減価償却費が減少しているのは、減損損失として計上されているためであり、実際に業績が回復(営業利益・経常利益ベース)したわけではありません。
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売上高当期純利益率と経常利益の差異を確認すると、その違いに気付くことができます。
企業力Benchmarkerでは、この情報が財務情報一覧および営業効率の項目に記載されています。
減価償却費の値はどこに載っているか
販管費の内訳項目は表示場所が複雑
いざ「減価償却費を自分で分析しよう!」と思ったときに、まず注意すべき点は開示の有無です。
前提として、減価償却費は「販売費および一般管理費」の一項目に含まれます。
このような販管費の内訳項目は、開示の有無や開示場所が企業によって異なり、複雑なケースも多いため、詳しく解説していきます。
また、分析対象の企業によっては、そもそも非開示のため、十分な分析ができない場合もあるため、注意が必要です。
減価償却費がPL本表に載っているケース
非上場企業の一般的な決算書では、減価償却費は基本的に独立して掲記されています。
一方、有価証券報告書を提出する企業(上場企業等)では、PL本表で減価償却費を開示している企業は約16%(約780社・2024年)にとどまります。 残りの約84%の企業では、PL本表に減価償却費が記載されていません。ただし、これらの企業でも、減価償却費は、PL本表の数ページ後の注記に開示されることがあります。
なお、企業力Benchmarkerでは、PL本表で開示されている減価償却費の値は取得していますが、注記のみで開示されている場合は取得していません。
以降の章では、有価証券報告書を提出する企業について、会計基準ごとに詳細を解説します。
日本基準を採用する企業の場合
PL本表で減価償却費を開示している約780社は、会計基準として「日本基準」を採用しています。ドメスティック産業を主軸とする企業などは、ステークホルダーにも馴染みの深い日本基準で財務諸表を開示することが多いです。
ただし、日本基準を採用している企業の中にも、減価償却費を含む販管費の内訳項目をPL本表で開示していない企業も多く存在します。その場合は、注記を確認する必要があります。
KeePer技研は、減価償却費をPL本表に掲記しており、ほぼすべての勘定科目を積極的に開示しています。
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米国会計基準を採用する企業の場合
次に、米国会計基準を採用する企業について説明します。 前述のとおり、日本基準を採用している企業以外では、PL本表に減価償却費が開示されることはありません。
米国会計基準では、「販売費及び一般管理費」の金額のみが本表に記載されており、減価償却費の開示があるかどうかは、各注記を確認する必要があります。
なお、別の論点として、米国会計基準では、販売費及び一般管理費とは区別して研究開発費が独立して掲記される場合も多くあります。
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IFRSを採用する企業の場合
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次に、IFRS(国際会計基準)を採用する企業について説明します。
IFRSは、グローバルに展開する企業が採用する傾向にあり、世界的に認知されている会計基準です。 そのため、海外の投資家や企業をステークホルダーに持つ場合、IFRSを採用するメリットがあります。
IFRSを採用する企業の財務諸表は、一般的に以下のような表記となっており、連結損益計算書(PL本表)には減価償却費が記載されていません。 そのため、詳細を確認するには注記を参照する必要があります。
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まとめ
- 1減価償却費とは、企業が所有する固定資産(例えば建物、機械、設備、車両など)の購入費用を、使用可能な期間(耐用年数)にわたって分割して計上する費用。
- 2 減価償却費と修繕費のトレードオフ
- 3 減損損失が多いと減価償却費が減る
- 4 日本基準は(連結)損益計算書上減価償却費が表記される場合もあるが、米国会計基準・IFRSでは表記されない。
特別損失について解説しています。