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買収に自信を深めた日本製鉄

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目次

日本製鉄 概要

企業名日本製鉄株式会社
証券コード5401所在地東京都
上場/非上場上場業種鉄鋼業
連結/個別連結売上高8,868,097百万円
会計基準IFRS総従業員数128,833人
分析対象の期2015年03月~2024年03月
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日本製鉄株式会社(Nippon Steel Corporation)は、日本最大手の鉄鋼メーカーであり、世界的にもトップクラスの生産能力を誇ります。1950年に発足し、2012年に新日本製鉄と住友金属工業の合併を経て現在の形となりました。高品質な鉄鋼製品を提供し、自動車、建設、インフラ、エネルギーなど多様な産業を支えています。

近年、グローバル戦略を強化しており、2023年12月には米国の大手鉄鋼メーカー「USスチール(United States Steel)」の買収を発表しました。総額約146億ドル(約2.1兆円)の大型買収であり、これにより北米市場での競争力を大幅に強化し、世界的な鉄鋼業界の再編を主導する狙いがあります。今後、持続可能な鉄鋼生産の推進や高付加価値製品の拡充を進め、グローバルリーダーとしての地位を確立していく方針です。

バイデン大統領に続くトランプ大統領によるUSスチール買収阻止は今後どうなるのでしょうか。ことの顛末は「USスチール なぜ経営陣は日本製鉄による買収を望んだか」の記事に詳述しております。

日本製鉄の経営状況を俯瞰する 

日本製鉄2403 企業力総合評価10年グラフ
企業力総合評価

右肩上がり=企業成長

と定義づけた当社独自の統合指標。0~200ポイントで評価。

ポイント数は、倒産から遠ざかることを成長と定義した統計処理により算出される。

統合指標には、企業力総合評価と親指標(営業効率~安全性)があります。企業力総合評価を確認できたら、次は各親指標を見ていきましょう。親指標は、ゾーニングにより、会計の知識がなくても経営が良い状況かどうかパッとわかります。

緑色ゾーンであれば正常、赤色ゾーンは悪い状態です。

日本製鉄2403営業効率10年グラフ
営業効率

「儲かるか」を示す統合指標

緑色ゾーンであれば良、赤色ゾーンであれば否、天井値であれば最高水準、底値であれば、悪すぎることを示します。

投下資本に対していくら利益が上がったかについての統合指標

緑色ゾーンであれば良、赤色ゾーンであれば否、天井値であれば最高水準、底値であれば、悪すぎることを示します。

日本製鉄2403 資本効率10年グラフ
日本製鉄2403生産効率10年グラフ
生産効率

人の活用度を評価する財務指標の統合指標

緑色ゾーンであれば良、赤色ゾーンであれば否、天井値であれば最高水準、底値であれば悪すぎることを示します。

資産の活用度についての統合指標

緑色ゾーンであれば良、赤色ゾーンであれば否。天井値はなく、底値以下は悪すぎることを示します。

日本製鉄2403資産効率10年グラフ
日本製鉄2403 流動性10年グラフ
流動性とは

短期資金繰りについての統合指標財務体質を表します

緑色ゾーンであれば良、赤色ゾーンであれば否、天井値以上であれば満足水準、底値以下であれば悪すぎることを示します。

短期資金繰りについての統合指標で、財務体質を表します

緑色ゾーンであれば良、赤色ゾーンであれば否、天井値以上であれば満足水準、底値以下であれば悪すぎることを示します。

日本製鉄2403 安全性10年グラフ

企業力の総合評価は、営業効率や資本効率の影響を大きく受けます。営業効率と資本効率は、2020年に底値に近い水準まで悪化した後、急速に改善し、天井値に達しました。

生産効率は1年遅れで推移し、2021年に谷を迎えた後、急速に改善しています。
資産効率は、この10年間赤信号領域にとどまっています。流動性は改善傾向にあり、安全性は青色ゾーン内で若干悪化したものの、安定を維持しています。

売上高の変動は激しいものの、従業員数の削減は行っていません(従業員数は下記グラフでデータを示しています)。

BSバランス・PLボックスを活用し、日本製鉄の数値の動きを把握

BSバランスは、貸借対照表を「流動資産・固定資産・流動負債・固定負債・純資産」の5つの要素に分解し、面積と金額を一致させることで、視覚的に理解しやすくします。さらに、時系列で並べることで、経営方針の変化などを読み取ることができます。

PLボックスは、「売上高・売上原価・販売費及び一般管理費・IFRS基準のその他収益・費用」などを同様の手法で整理し、業績の推移を把握するのに役立ちます。

日本製鉄2403BSバランス10年グラフ
日本製鉄2403BSバランス10年グラフ

総資産は緩やかに増加しています。流動資産(↑紺色)の増減は売上高(↓青色)と相関関係にあります。増収すると売上債権・棚卸資産・仕入債務が増加するので順当といえます。

純資産(↑緑色)は2019年まで増加傾向にありましたが、2020年に一時減少した後、再び増加に転じました。また、固定資産(↑水色)の増加に伴い、固定負債(↑肌色)も増加しています。固定資産・固定負債・純資産のバランスを適切に管理し、投資と資金調達の均衡を保っているといえます。

日本製鉄2403PLボックス10年グラフ
日本製鉄2403PLボックス10年グラフ

2020年に向けて営業利益(↑緑色)は減少し続けていました。しかし、2021年に営業損失となった後、営業利益は着実に増加に転じました。

日本製鉄の営業効率を深掘り

2017年までは減収が続き、売上高利益率も低下していました。
しかし、その後2019年までは増収に転じ、売上高利益率も改善しました。
2020年から2021年にかけては、米中貿易摩擦やコロナ禍、中国の設備投資支援による供給増加の影響で値崩れが発生しましたが、事業再編を実施することでこれを乗り切りました。

2022年以降、力強い増収と売上総利益率の急改善に加え、売上高販管費比率の改善により、売上高営業利益率・売上高経常利益率・売上高当期純利益率が急速に改善しています。

 

日本製鉄2403営業効率財務指標・数値10年グラフ(関税時期記入)

日本製鉄とUSスチールの営業効率を比較

下記グラフは日本製鉄とUSスチールの営業効率財務指標・数値に第1次トランプ政権の関税期間を書き加えたグラフです。

25%関税は日本製鉄にとって予想通りの減収要因でしたが、USスチールは2020年まで減収しており、関税の恩恵を受けていません。

これは、関税による利益を相殺するほどの内部課題や市場環境の影響を受けていた可能性があります。2021年の急激な増収については、「日本製鉄・USスチールZOOM解説会」で詳しく説明いたします。記事の終わりにご案内があります。

日本製鉄・USスチール営業効率財務指標数値

日本製鉄の子会社の経営状況

営業効率財務指標・数値グラフは、連結財務諸表のデータをもとに作成されています。日本製鉄には434の子会社があり、それらの財務諸表もすべて合算されています。果たして、これだけ多くの子会社を適切に管理できているのでしょうか。連結財務諸表のデータをもとに、子会社の経営状況を分析してみましょう。

下記は非支配株主に帰属する当期純利益の10年グラフです。

日本製鉄 非支配株主に帰属する当期純利益10年グラフ

連結子会社全体として、過去10年間、一度も当期純利益が赤字になったことはありません。
有価証券報告書を提出している会社のうち、これを達成しているのは10%程度であり、子会社管理の水準は上位10%以内に入っていると評価できます。

外部環境が厳しくても管理を怠らない姿勢が感じられますね。

非支配株主に帰属する当期純利益の説明は「日本製鉄・USスチールZOOM解説会」で致します。

 

子会社買収の成否

子会社は2015年期末は356社でしたが2024年には434社と20%ほど増加しています。子会社を設立することもありますが、M&Aすることもあります。総資産無形固定資産比率と売上高当期利益率の散布図を作成しました。

総資産無形固定資産比率のX軸を見ると10年間1~2.5%の範囲に収まっています。これは子会社を適正な価格で買収したことを意味します。今後期待が持てるとか、とにかく欲しいという買収ではなく、じっくり買収企業を選ぶ会社であると評価できます。

Y軸は営業効率の影響もありますが、当初より売上高当期純利益率は改善しています。

日本製鉄 総資産無形固定資産比率・売上高当期純利益率 10年散布図
計算式
総資産無形固定資産比率=無形固定資産合計÷無形固定資産合計(単位:%)

厳しくても人員削減しない日本製鉄

2020~2021年の鉄鋼不況においても、人員削減は実施しませんでした。
その後、増収に転じた際も人員の増加を抑えた結果、1人当たりの売上高・売上総利益・経常利益は大幅に改善しました。

日本製鉄2403生産効率財務指標・数値10年グラフ

日本製鉄とUSスチールの生産効率を比較

比較分析してみると、1人当たり売上高は過去10年間にわたりUSスチールの方が高く、2021年以降は急速に改善しています。日本製鉄も改善傾向にありますが、大きな差があります。これほど1人当たり売上高でUSスチールが優位に立っているにもかかわらず、営業効率がそれほど振るわないのは驚きです。

USスチール・日本製鉄 生産効率比較10年グラフ

日本製鉄は緻密な経営をされているようです。

併せて読みたい

USスチールに焦点を当てて日本製鉄との比較分析等を行っています。

まとめ

編集後記

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Picture of 山本純子
山本純子
株式会社SPLENDID21 代表取締役。企業評価・経営者評価のスペシャリスト。多変量解析企業力総合評価「SPLENDID21」というシステムにより、通常の財務分析ではできなかった経営全体を「見える化」するシステムを提供。 近年では様々な企業が本手法を利用して莫大なデータより有用な情報を引き出し、実際の経営に役立てています。 代表者プロフィールはこちら
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山本純子
株式会社SPLENDID21 代表取締役。企業評価・経営者評価のスペシャリスト。多変量解析企業力総合評価「SPLENDID21」というシステムにより、通常の財務分析ではできなかった経営全体を「見える化」するシステムを提供。 近年では様々な企業が本手法を利用して莫大なデータより有用な情報を引き出し、実際の経営に役立てています。 代表者プロフィールはこちら
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