今回は、製紙業大手の王子ホールディングス株式会社(以下、王子HD)を取り上げました。企業が事業縮小などで雇用を維持できない状況になった場合、労働者を速やかに再就職させるため、再就職支援を人材会社などに委託すると企業に支給されるのが労働移動支援助成金です。再就職支援が使命の王子HDが、人材大手テンプHDの子会社にリストラ指南を受け、従業員を退職に追いやり、補助金を得ていたことが問題になり、「首切りビジネス」と糾弾されました。
しかし、多くの方はこのニュースをご存じないと思います。
2011年~2015年3月期までの5年間を分析しました。
企業力総合評価は青信号領域であるも低調で、114.66P→106.45P→109.84P→120.58P→109.55Pと推移しています。
営業効率(儲かるか指標)・資本効率(資本の利用度指標)は青信号領域の真ん中を横に不安定に動いています。
生産効率(人の利用度指標)は青信号領域にあるも4期連続下落しています。この指標の悪化を食い止める手法の一つが労働移動支援助成金活用ということになります。確かに従業員数は減少し、給与は減るので生産効率と営業効率が改善します。
資産効率(資産の利用度指標)は赤信号領域です。売上に対して総資産が多いのでしょう。
流動性(短期資金繰り指標)は、赤信号領域から出ません。
安全性(長期資金繰り指標)は赤信号領域から青信号領域へ着実に改善トレンドです。
1949年8月創業、と社歴は長くかつ一部上場企業ではありますが、優良企業とは言えません。
下の東芝は2012~2016年3月期の第3四半期までの分析で、東芝の直近期は不祥事の影響の序盤データと考えて下さい。
東芝の企業力総合評価は、97.15P→98.53P→108.96P→106.74P→73.28Pと推移し、不適切会計発覚で33.46P(=73.28P-106.74P)も下落してしまいました。
王子HDは、東芝と同程度下落すれば76.09Pになってしまいます(赤色矢印)。60Pが破たん懸念ラインですから、ひょっとしたら、王子HDも厳しい経営状況となる可能性があります。
SPLENDID21NEWS第118号で東芝を取り上げましたが、不適切会計は年率0.32%という微々たるインパクトであっても、信用失墜に伴うその後の経営に及ぼす影響は相当なものです。リーマンショック時のような悪化です。
以下王子HDの有価証券報告書から抜粋しました。一番目に記載されています。
2016年2月22日に問題が発覚しましたが、4月7日現在、HPにお詫びの言葉もありません。
下の株価チャートを見て下さい。東芝が下落の一途なのに対し、株価はかえって上昇しています。
まとめ
問題の大きさは考慮されるべきかもしれませんが、現実の考慮は世間の注目度。
これからの王子HDは東芝とは違った道を辿るのかもしれません。不祥事は社会的信用を失墜させますが、信用の失墜のダメージは、報道の多寡によります。大きなダメージは東芝の企業体質を変える可能性がありますが、王子HDはその機会を失ったのかもしれません。
SPLENDID21NEWS第125号【2016年4月15日発行】をA3用紙でご覧になりたい方は下記をクリックしてください。