財務会計(決算書)は、未来を予測できると言われて、信じることができますか。今回は、過去に立てた予測を検証してみます。もし、その予測がズバリ当たっていたら、貴方も自社の決算書をもっともっと分析して経営に役立てて下さい。SPLENDID21NEWSでは上場企業を取り上げていますが、中小企業でも同じことが言えます。
V字回復失速予測は的中した ココカラファイン
今年3月のコラム(SPLENDID21NEWS第136号)では、ココカラファインの2016年のV字回復は失速し、2017年は上げ止まると予測しました。以下、2013年~2017年3月期までの5年間です。
企業力総合評価
左グラフ:営業効率、中グラフ:資本効率、右グラフ:生産効率
左グラフ:資産効率、中グラフ:流動性、右グラフ:安全性
企業力総合評価は126.14P→119.32P→ 115.77P→129.31P→129.15Pと推移しています。予測通りV字回復は上げ止まりました(○)。
流動性(短期資金繰り指標)、安全性(長期資金繰り指標)の2親指標は改善しましたが、営業効率(儲かるかの指標)、資本効率(資本活用度の指標)、生産効率(人の活用度の指標)、資産効率(資産の活用度の指標)の4つの親指標が悪化しています。この企業の活動力を表す4指標の悪化は、2016年の販売費及び一般管理費(以下販管)比率を低下させたことに起因します。販管費は、売上を上げ、不効率を正す為に支出するコストですから、削減の悪影響が2017年に現れました。V字回復は、売上高総利益率を改善させて行うのが上策で、2016年のような販管費率を調整した利益率改善は未来を犠牲にするリスクを伴います。
情報化社会の到来からAIまで
情報化社会と言われて久しく、数年前に統計学ブームとなり、データマイニング(データの中から有用な情報を抜き出す)、AIへと時代は進んできました。いずれも目的は、「判断」であり、手段は「データ」でした。
SPLENDID21では決算書という財務会計のデータを、経営判断に役に立てて貰おうとしています。しかし、AIへ向かう時代であるにも関わらず、現場では財務会計から有用な情報を取り出し、判断に繋げる活動は不十分であると言えます。全ての会社で多大なコストをかけて決算書を作成しているにもかかわらず、です。
財務会計の活用が進まない
企業が財務会計の活用が進まない理由の類型を示します。
決算書は税額確定のための計算フィールドでしかない場合や、税務会計となっているケース。
小規模企業に多くみられます。これに対しては、会計事務所が努力すべきでしょう。例えば、回収不可能な債権が税務上損金にならないからといって、資産計上されたままであれば、営業効率、資本効率、資産効率、流動性、安全性は正しく評価されず、企業力総合評価も違ってきます。ならば、回収不能額を損失計上し、法人税申告書上で調整すればよいのです。会計事務所の決算業務は煩雑になりますが、顧問先の経営判断の為に努力すべきでしょう。
一足飛びに管理会計へ行ってしまうケース。
規模が大きくなってきた企業に見られます。勿論、管理会計が悪い訳はありませんが、その手前の財務会計から得られる情報を基に何をすべきか、会社全体を読むことを忘れています。管理会計ONLYでは、個別に改善できても企業全体を見失う可能性があります。財務会計の優れている点は、網羅性・全体性です。財務会計はどの会社でもしているのですからこれを捨てる必要はありません。
経営計画に比重を置きすぎるケース。
経営計画は必要ですが、財務会計を基礎に現状分析を徹底して行い、自社の強み・弱みを明確化して、行動基準に盛り込んで初めて、より実現可能性の高い経営計画を作成することが出来るのではないでしょうか。絵に描いた餅は会社にとっては辛いものとなります。
努力はしているが、未達成のケース。
データを「見える化」する必要があります。財務会計を数字として見ていると、悪化や改善、赤青ゼロ判別など気が付きにくくなります。悪化が右肩下がり、改善が右肩上がり、ダメなら赤信号・大丈夫なら青信号になるようにして、時系列グラフを観察すれば、するすると解が現れます。
打つべき手までわかる 三越伊勢丹ホールディングス
下記が、以前取り上げた三越伊勢丹ホールディングスの診断です。9年前の三越との合併によって生産効率以外を急落させ、企業力総合評価が悪化しました。このM&Aの失敗を従業員リストラのみでカバーしたため、生産効率は改善しましたが、抜本的改革になりませんでした。
三越伊勢丹ホールディングスは、しっかりした経営計画を立てています。しかし、企業力が上がらないのは、財務会計の数字を分析し、何が真因か掴まなかったからです。
企業力総合評価
左:営業効率、右:資本効率
左:生産効率、右:資産効率
左:流動性、右:安全性
SPLENDID21の診断では、問題点の抽出から改善手法の提案まで一気通貫しています。財務会計から、管理会計の注目ポイント、経営計画に織り込むべき点まで読み取っていることをご確認いただけたのではないでしょうか。
まとめ
AI時代に人間として能力を発揮する側に回りたければ、会計リテラシーを高め、コミュニケーション能力を磨くことではないでしょうか。
あなたの会計リテラシーをチェック初級編 ビジネスマン格付け
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