スポーツ用品大手の株式会社デサントが、伊藤忠商事株式会社から経営権掌握の目的で、敵対的TOB(株式の公開買い付け)を仕掛けられました。感情のもつれは横に置いて、財務の視点から両社を考察しました。
経営状況を俯瞰する 伊藤忠商事とデサント
2014~2018年までの5年を分析してみました。
生産効率以外は、企業力総合評価を含めデサントの方が勝っています。このことから、デサントの業績の心配などから、伊藤忠商事が支配力を強めようとした可能性はなくなります。どちらかといえば、逆でデサントを子会社化して、伊藤忠商事の連結財務諸表に組み込みたい意図があったのでしょう。
多変量解析企業力総合評価分析SPLENDID21は、企業の経営状況を多角的に評価し統合して評価します。企業力総合評価を高くしようとすれば、親指標(営業効率・資本効率・生産効率・資産効率・流動性・安全性)を高く維持する必要があります。どの親指標も高いデサントの企業力総合評価は高くなります。
企業力総合評価から生産効率にドリルダウン
デサントがこの5年間に力を入れてきたことは親指標を見ればわかります。生産効率です。2017年1期悪化してはいるとは言え、無関心ではこのようなきれいな改善トレンドにはなりません。
生産効率から各財務指標にドリルダウン
次のグラフを見てください。デサントは2017年、販売職スタッフを正社員化し、その為人件費が上がり、売上高営業利益率は悪化しました。翌2018年は改善トレンドになりました。
統計データ 有効求人数と有効求職者数
デサントはなぜ、人件費がかかる正社員化をしたのでしょうか。
政府統計の有効求人数、有効求職者数の統計を見れば、リーマン・ショック後、一貫して同じ状況が続いていることがわかります。そもそもこの統計に影響を与える人口統計からも、労働市場でのこの状況を容易に予測できるはずです。
求職者の減少と求人の増加がWで来ているのであれば、より高い給与を求める自社の臨時雇用社員は、他社で正社員になろうと転職してしまうはずです。そうすれば、採用コスト増と新人教育に時間とお金を取られるのは目に見えています。仕事に慣れてくれている臨時雇用を正社員化してこれを食い止めることは非常に合理的です。
デサントは、自社の人事関係の数字もよく見ていたのでしょう。
まとめ
結局、数字を根拠に意思決定する会社は正しい判断をします。財務諸表・決算書は企業の経営実態を表します。財務諸表・決算書は、財務諸表分析を徹底して行い、自社のとるべき道を見定める為にあるのではないでしょうか。財務諸表分析ができる会社であれば、統計データの活用は簡単にできます。
企業を取り巻く大きな流れまでも読む会社が生き残るのは自明ではないでしょうか。
SPLENDID21NEWS第160号【2019年3月15日発行】をA3用紙でご覧になりたい方は下記をクリックしてください。