企業分析ナレッジ

販売費及び一般管理費率の悪化 出店費用増大 ヴィレッジヴァンガード

Facebook
X
Email
Print
目次

今回は、株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーションを分析してみましょう。

同社は、「遊べる本屋」をキーワードに、本、CD、DVD、雑貨等を複合的に陳列する事で、大不況の書店業界で躍進を続ける優良企業です。直近の決算書を見ても、増収増益で、財務内容も充実しており、特に問題点があるようには見えません。この様な会社にも弱点はあるのでしょうか?

ヴィレッジヴァンガードの総合評価は160点台の好評価で推移していますが、営業効率、資本効率、安全性が、天井圏からやや剥離し始めています。生産効率が赤信号領域なのは、機械化等の効率化によってテコの原理が働く製造業に比べて、人がキーになる業種に良くある傾向です。

特に同社の場合、「遊べる本屋」を実現する為には、顧客が楽しめる独創的な空間を演出し、商品を提供できるスタッフが不可欠であり、その事業価値は「人」に依存しているので尚更です。

では、営業効率の下位指標を見てみましょう。

売上高総利益率は改善していますが、売上高経常利益率、売上高当期利益率が悪化しています。

売上高営業利益率も悪化している為、悪化の原因は販売費・一般管理費(販管費)にありそうですね。

2008年5月期と2009年5月期の販管費を比較した時に増加した科目のベスト3は以下の通りです。

 

1位: 給料賞与  +850百万(+28.1%)

2位: 賃借料   +502百万(+21.1%)

3位: 消耗品費  +258百万(+74.8%)

 

店舗推移表からもわかりますように、これらに共通するのは「新規出店費用」ですね。

同社の店舗はインショップが多い為、テナント料が増加し、人件費が増加し、出店に伴う少額の什器備品等が増加するからです。販管費増加額23億の内、16億がこの3科目で増加しています。

新規出店をする事で、将来的に売上高が順調に伸びれば良いのですが、以下の表を見てください。

かつて、90ヶ月連続で100%を超えてきた直営既存店売上高の前年対比は、2009年2月以降、前年を大幅に下回る状態が続いています。これでは将来的な業績に寄与するどころかリスク要因になります。

では、同社の新規出店戦略をキャッシュフローの視点から見てみましょう。

出店投資に積極的なニトリと比較すると、共に投資CFが大きくマイナスし、営業CFと財務CFで投資CFを捻出しています。大きな違いは、ニトリの営業CFが拡大傾向で、年々、投資CFとの差を縮めているのに対し、ヴィレッジヴァンガードの営業CFは不安定で、財務CF(主に借入金)に頼っています。

この差は棚卸回転期間が関係しています。ニトリの棚卸資産回転期間(在庫期間)が1.0ヶ月に対して、ヴィレッジヴァンガードは5.1ヶ月となっており、新規出店に際して、設備投資以外にも、巨額の商品調達資金が必要になるのです。棚卸資産の増加は営業CFでマイナスする為、営業CFが伸び悩む事になります。

まとめ 

ヴィレッジヴァンガードにとって、出店加速によるスタッフの育成不足が、売上効率重視となり、独創的な空間と商品の提供という自社の成功要因(KFS)を失わせる結果になっていないのでしょうか?

「他店では扱わない」「常時売れない」そんな非効率な商品もあってのオンリーワン店舗ですから、同社の経営戦略を考える時、この経営効率の悪さこそが同社の成功要因(KFS)であるとも言えます。

その強みを生かせる緩やかなスピードで拡大戦略をとる事が、確実な成長につながるのではないでしょうか。

SPLENDID21NEWS第52号【2010年3月15日発行】をA3用紙でご覧になりたい方は下記をクリックしてください。

sp21news052ヴィレッジヴァンガード

Facebook
X
Email
Print
Picture of 企業評価・経営者評価のスペシャリスト 山本純子
企業評価・経営者評価のスペシャリスト 山本純子
株式会社SPLENDID21 代表取締役。 多変量解析企業力総合評価「SPLENDID21」というシステムにより、通常の財務分析ではできなかった経営全体を「見える化」するシステムを提供。 近年では様々な企業が本手法を利用して莫大なデータより有用な情報を引き出し、実際の経営に役立てています。 代表者プロフィールはこちら
Picture of 企業評価・経営者評価のスペシャリスト 山本純子
企業評価・経営者評価のスペシャリスト 山本純子
株式会社SPLENDID21 代表取締役。 多変量解析企業力総合評価「SPLENDID21」というシステムにより、通常の財務分析ではできなかった経営全体を「見える化」するシステムを提供。 近年では様々な企業が本手法を利用して莫大なデータより有用な情報を引き出し、実際の経営に役立てています。 代表者プロフィールはこちら
関連記事

今回の記事は、タマホーム株式会社についてです。不動産業界は職人不足による施工費用の高騰・2021年のウッドショック・世界的インフレの現在まで、売上原価の上昇が長らく続いてます。タマホーム株式会社は「より良いものをより安く […]

今回は、「一人あたり売上高」や「一人あたり総利益」といった“生産効率”と呼ばれる財務指標カテゴリに着目した記事です。生産効率の悪化は給与アップができていないことを意味しますので、人材獲得合戦の時代には見過ごすことができま […]

簡単な概要を書く場所 ○○株式会社の概要 吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。 企業名 タマホーム株式会社 証券コード […]

新着記事
カテゴリーで探す
目次