今回は、2013年6月13日、社長解任クーデターが成功した川崎重工業株式会社を分析してみました。川崎重工業の社長は、三井造船株式会社との経営統合を進めていました。それを白紙にする役員による社長解任のクーデターは、川崎重工業にとって、正しい判断であったか否かを検証します。
企業力総合評価は、青信号領域で安定感がある三井造船が良いと判断されます。
営業効率(儲かるか)、資本効率(資本利用度)、生産効率(人の利用度)、安全性(長期資金繰り)も三井造船が優良です。
資産効率(資産利用度)は引き分け。
流動性(短期資金繰り)は、川崎重工業が勝っています。
以上は、企業の全体性と、下位の指標を比べた場合ですが、これによれば川崎重工業は、三井造船と経営統合すべきであると結論付けられます。
しかし、川崎重工業は、船舶海洋事業(船舶等の製造・販売)、車両事業(鉄道車両、除雪機械等の製造・販売)、航空宇宙事業(航空機等の製造・販売)、ガスタービン・機械事業(ジェットエンジン、産業用ガスタービン、原動機等の製造・販売)、プラント・環境事業(産業機械、ボイラ、環境装置、鋼構造物、破砕機等の製造・販売)、モーターサイクル&エンジン事業(二輪車、四輪バギー車「ATV」、多用途四輪車、パーソナルウォータークラフト「ジェットスキー」、汎用ガソリンエンジン等の製造・販売)、精密機械事業(油圧機器、産業ロボット等の製造・販売)、その他事業(建設機械等の製造・販売、商業、販売・受注の仲介・斡旋、福利施設の管理等)と他事業を行っておりそれぞれがどのような経営状況であるかを明らかにしなければ、同社にとっての経営統合価値は読み切れません。
下表の赤字は全社合計より低い営業利益率、青字は高い利益率を示します。これを見ると、船舶海洋事業は、モーターサイクル&エンジン事業、その他事業に続き課題のある事業部との評価となります。また、赤字事業を放置し勝ちであることも読み取れます。
左下グラフは、川崎重工業内で、船舶海洋事業部が、全社営業利益率を引き下げていることが分かります。また、右下グラフでは、川崎重工業の船舶海洋事業は改善トレンドですが、三井造船の営業利益率が高く、三井造船の方が、良いことが分かります。
川崎重工業の事業部別売上高推移を示します。船舶海洋事業は2010年3月期から売上が40.52%下がり、減収を利益率UPで凌いできたが、これここで限界と思っての経営統合であったのでしょう。川崎重工業の全社売上が1,288,881百万円、うち船舶海洋事業売上90,343百万円、それが、売上高577,093百万円の三井造船との経営統合を望むのは合理的な選択と言えるでしょう。
三井造船から見れば、自社の減収を食い止め、世界的な需要低迷の中で生き残りをかけた統合交渉であったものの、経営統合という合理的な選択をクーデターでひっくり返す川崎重工業との統合は、無くなって良かったのかもしれません。
まとめ
川崎重工業は、三井造船との経営統合を進める方が、成長に繋がったと思われます。逆に言えば、クーデターは、川崎重工業全体の成長を目指しての判断ではなかったのではないでしょうか。以上が財務分析から読んだ経営統合の是非の考察です。
SPLENDID21NEWS第92号【2013年7月15日発行】をA3用紙でご覧になりたい方は下記をクリックしてください。