今回は、株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーションを分析してみましょう。
同社は、「遊べる本屋」をキーワードに、本、CD、DVD、雑貨等を複合的に陳列する事で、大不況の書店業界で躍進を続ける優良企業です。直近の決算書を見ても、増収増益で、財務内容も充実しており、特に問題点があるようには見えません。この様な会社にも弱点はあるのでしょうか?
ヴィレッジヴァンガードの総合評価は160点台の好評価で推移していますが、営業効率、資本効率、安全性が、天井圏からやや剥離し始めています。生産効率が赤信号領域なのは、機械化等の効率化によってテコの原理が働く製造業に比べて、人がキーになる業種に良くある傾向です。
特に同社の場合、「遊べる本屋」を実現する為には、顧客が楽しめる独創的な空間を演出し、商品を提供できるスタッフが不可欠であり、その事業価値は「人」に依存しているので尚更です。
では、営業効率の下位指標を見てみましょう。
売上高総利益率は改善していますが、売上高経常利益率、売上高当期利益率が悪化しています。
売上高営業利益率も悪化している為、悪化の原因は販売費・一般管理費(販管費)にありそうですね。
2008年5月期と2009年5月期の販管費を比較した時に増加した科目のベスト3は以下の通りです。
1位: 給料賞与 +850百万(+28.1%)
2位: 賃借料 +502百万(+21.1%)
3位: 消耗品費 +258百万(+74.8%)
店舗推移表からもわかりますように、これらに共通するのは「新規出店費用」ですね。
同社の店舗はインショップが多い為、テナント料が増加し、人件費が増加し、出店に伴う少額の什器備品等が増加するからです。販管費増加額23億の内、16億がこの3科目で増加しています。
新規出店をする事で、将来的に売上高が順調に伸びれば良いのですが、以下の表を見てください。
かつて、90ヶ月連続で100%を超えてきた直営既存店売上高の前年対比は、2009年2月以降、前年を大幅に下回る状態が続いています。これでは将来的な業績に寄与するどころかリスク要因になります。
では、同社の新規出店戦略をキャッシュフローの視点から見てみましょう。
出店投資に積極的なニトリと比較すると、共に投資CFが大きくマイナスし、営業CFと財務CFで投資CFを捻出しています。大きな違いは、ニトリの営業CFが拡大傾向で、年々、投資CFとの差を縮めているのに対し、ヴィレッジヴァンガードの営業CFは不安定で、財務CF(主に借入金)に頼っています。
この差は棚卸回転期間が関係しています。ニトリの棚卸資産回転期間(在庫期間)が1.0ヶ月に対して、ヴィレッジヴァンガードは5.1ヶ月となっており、新規出店に際して、設備投資以外にも、巨額の商品調達資金が必要になるのです。棚卸資産の増加は営業CFでマイナスする為、営業CFが伸び悩む事になります。
まとめ
ヴィレッジヴァンガードにとって、出店加速によるスタッフの育成不足が、売上効率重視となり、独創的な空間と商品の提供という自社の成功要因(KFS)を失わせる結果になっていないのでしょうか?
「他店では扱わない」「常時売れない」そんな非効率な商品もあってのオンリーワン店舗ですから、同社の経営戦略を考える時、この経営効率の悪さこそが同社の成功要因(KFS)であるとも言えます。
その強みを生かせる緩やかなスピードで拡大戦略をとる事が、確実な成長につながるのではないでしょうか。
SPLENDID21NEWS第52号【2010年3月15日発行】をA3用紙でご覧になりたい方は下記をクリックしてください。